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昇圧回路設計
(しょうあつかいろせっけい)
昇圧回路設計とは、入力された直流電圧よりも高い直流電圧を生成するための回路を設計することです。英語ではブーストコンバータ、ステップアップコンバータなどと呼ばれます。
例えば、電池や低電圧の直流電源から、センサ、表示器、通信回路、アクチュエータなどが必要とする電圧をつくる場合に使用します。入力が3.7Vのリチウムイオン電池で、回路が必要とする5Vや12Vを供給するといった用途があります。
昇圧回路では、コイルに一時的にエネルギーを蓄え、スイッチング素子のON/OFFによって入力電圧へ重ね合わせることで、高い出力電圧を得ます。出力電圧だけでなく、負荷電流、変換効率、発熱、ノイズ、起動時の動作、保護機能まで考慮した設計が必要です。
昇圧回路が必要となる場面
- 乾電池や充電池から高い電圧を得る場合
- 5V電源から12V系の回路を動作させる場合
- センサやアナログ回路に必要な電圧を生成する場合
- 表示器やLEDを駆動するための電圧をつくる場合
- 電源電圧が低下しても一定の出力電圧を維持する場合
- 既存電源から別系統の補助電源を生成する場合
ただし、昇圧回路は電圧を高くできても、入力側に存在しない電力を増やすことはできません。出力電圧を高くすると、同じ出力電力を得るために入力側にはより大きな電流が流れます。
昇圧回路の基本構成
一般的なスイッチング方式の昇圧回路は、コイル、スイッチング素子、ダイオード、出力コンデンサ、制御ICなどで構成されます。
コイル
スイッチング素子がONしている間に、入力電源から流れる電流によってエネルギーを蓄えます。必要な電流容量、インダクタンス、直流抵抗、飽和電流を確認して選定します。
スイッチング素子
MOSFETなどを高速でON/OFFし、コイルへエネルギーを蓄える期間と、出力側へ放出する期間を切り替えます。制御ICに内蔵されている製品と、外付けする製品があります。
ダイオード
スイッチング素子がOFFした際に、コイルから出力側へ電流を流します。高速応答と低い順方向電圧が求められるため、ショットキーバリアダイオードなどが使用されます。
同期整流方式では、ダイオードの代わりにMOSFETを使用して損失を減らします。
出力コンデンサ
コイルから断続的に供給される電流を平滑化し、出力電圧の変動を抑えます。容量、耐圧、等価直列抵抗、温度特性を確認します。
制御IC
出力電圧を監視し、設定値を保つようにスイッチングのON時間や周波数を調整します。過電流保護、過電圧保護、低電圧停止、ソフトスタートなどを備えた製品もあります。
昇圧の基本的な動作
スイッチング素子がONのとき
入力電源からコイルへ電流が流れ、コイルに磁気エネルギーが蓄えられます。この間、出力側の負荷には主に出力コンデンサから電力が供給されます。
スイッチング素子がOFFのとき
コイルは流れていた電流を維持しようとするため、コイル両端に入力電圧と同じ向きの電圧が発生します。入力電圧とコイルの電圧が加わり、ダイオードを通して出力コンデンサと負荷へ電流が流れます。
このON/OFF動作を高速で繰り返すことで、入力よりも高い直流電圧を生成します。
出力電圧とデューティ比
理想的な昇圧回路では、入力電圧Vin、出力電圧Vout、スイッチング素子のデューティ比Dの関係は、概算で次のように表せます。
Vout=Vin/(1-D)
デューティ比は、1周期のうちスイッチング素子がONしている割合です。
例えば、入力電圧が5V、デューティ比が0.5の場合、理想的な出力電圧は次のようになります。
Vout=5/(1-0.5)=10V
実際には、ダイオード、コイル、MOSFET、配線などで損失が発生するため、理想式より出力電圧や変換効率は低くなります。制御ICは出力電圧を測定し、損失や負荷変動を補うようにデューティ比を調整します。
入力電流と出力電流の関係
昇圧回路では、出力電圧を高くするほど入力電流が大きくなることに注意が必要です。
入力電力をPin、出力電力をPout、変換効率をηとすると、次の関係になります。
Pout=Pin×η
出力が12V、0.5Aで、変換効率が90%の場合、出力電力は6Wです。入力が5Vの場合、必要な入力電流Iinは概算で次のようになります。
Iin=6/(5×0.9)≒1.33A
出力電流が0.5Aであっても、入力側には1Aを超える電流が必要です。入力電源、配線、コネクタ、保護素子は入力電流を基準に選定します。
設計上のポイント
入力電圧範囲を確認する
電池を使用する場合、満充電時と放電時では電圧が異なります。公称電圧だけでなく、想定される最低入力電圧と最大入力電圧を確認します。
入力電圧が低下すると、同じ出力電力を維持するために入力電流が増えます。最低入力電圧時に、制御IC、コイル、MOSFET、入力電源の定格を超えないことを確認します。
必要な出力電流を確認する
平均的な負荷電流だけでなく、起動時や通信時に発生する最大電流も確認します。無線通信モジュール、表示器、モーターなどは、一時的に大きな電流を必要とする場合があります。
昇圧回路の電流能力が不足すると、出力電圧が低下したり、過電流保護によって再起動を繰り返したりします。
コイルの飽和を防ぐ
コイルへ流れる電流が飽和電流を超えると、インダクタンスが低下し、電流が急激に増えることがあります。発熱、効率低下、制御ICやMOSFETの破損につながる可能性があります。
最大負荷、最低入力電圧、起動時、短絡時を含めてピーク電流を確認し、余裕のあるコイルを選定します。
部品の耐圧を確認する
出力コンデンサ、ダイオード、MOSFETなどには、出力電圧以上の電圧が加わります。スイッチング時の過渡的な電圧上昇も考慮し、耐圧に余裕を持たせます。
負荷が急に切り離された場合は、出力電圧が一時的に上昇することがあります。過電圧保護や負荷遮断時の動作も確認します。
発熱と変換効率を確認する
コイルの直流抵抗、MOSFETのON抵抗、ダイオードの順方向電圧、スイッチング損失などによって発熱します。
入力電圧と出力電圧の差が大きい場合や、出力電力が大きい場合は、部品温度が上昇します。基板の銅箔面積、放熱経路、筐体内温度を考慮して設計します。
出力リップルとノイズ
昇圧回路は高速スイッチングによって電圧を変換するため、出力にはリップルと呼ばれる周期的な電圧変動が発生します。
出力コンデンサの容量を大きくするとリップルを抑えやすくなりますが、部品寸法、突入電流、制御の安定性にも影響します。容量だけでなく、等価直列抵抗と配線インピーダンスも確認します。
計測回路やセンサ回路では、スイッチングノイズが測定値へ混入することがあります。LCフィルターや低ノイズレギュレータを追加し、昇圧回路とアナログ回路の配置を離す方法を検討します。
基板配線の注意点
スイッチング素子、ダイオード、コイル、入力・出力コンデンサの間には、大きく変化する電流が流れます。この電流経路を長くすると、ノイズ、発熱、電圧変動が増加します。
大電流が流れる配線は短く太くし、スイッチング電流が流れる回路面積を小さくします。制御ICのフィードバック配線は、コイルやスイッチングノードから離して配置します。
GNDを無計画に共有すると、スイッチング電流による電圧変動がセンサや通信回路へ影響します。電力系と信号系の電流経路を考慮して基板を設計します。
起動時の動作
電源投入時に出力コンデンサを急速に充電すると、大きな突入電流が流れます。入力電源の電圧が低下し、他の回路が再起動することがあります。
ソフトスタート機能を使用し、出力電圧を徐々に上昇させることで突入電流を抑えます。負荷側の回路を出力電圧が安定してから起動する方法もあります。
入力電圧が不足している状態で動作を続けると大電流が流れるため、低電圧ロックアウト機能によって一定電圧以下では昇圧を停止させる場合があります。
保護回路
過電流保護
負荷の短絡や過負荷時に、コイルやスイッチング素子へ過大な電流が流れることを防ぎます。電流制限、周期ごとのピーク電流制御、ヒカップ動作などがあります。
過電圧保護
フィードバック配線の断線や負荷の急変によって、出力電圧が設定値以上に上昇することを防ぎます。制御ICの保護機能に加え、ツェナダイオードなどを用いる場合があります。
温度保護
制御ICやスイッチング素子の温度が上昇した場合に、出力を制限または停止します。温度保護が繰り返し動作する場合は、負荷条件や放熱設計を見直します。
逆流防止
入力電源が停止した際に、出力コンデンサや別電源から入力側へ電流が逆流する場合があります。回路構成によっては、ダイオードや逆流防止素子を追加します。
異常時の確認と切り分け
出力電圧が上がらない場合は、入力電圧、制御ICの有効信号、コイル、ダイオード、スイッチング波形、負荷電流を確認します。
無負荷では正常でも負荷を接続すると電圧が低下する場合は、入力電源容量の不足、コイルの飽和、過電流保護、配線抵抗などが考えられます。
出力電圧が周期的に上下する場合は、過電流保護、入力電圧低下、温度保護が繰り返し動作している可能性があります。
計測値や通信が不安定な場合は、出力電圧の平均値だけでなく、オシロスコープでリップル、スイッチングノイズ、瞬間的な電圧低下を確認します。
保守・部品変更時の注意点
昇圧用の制御ICを後継品へ変更する場合は、入力・出力電圧、最大スイッチ電流、スイッチング周波数、フィードバック電圧、保護機能、端子配置を確認します。
同じ出力電圧を設定できても、必要なコイル、ダイオード、コンデンサ、補償回路が異なる場合があります。周辺部品をそのまま流用できるとは限りません。
コイルやコンデンサの変更でも、効率、リップル、発熱、制御安定性が変化します。部品変更後は、最低・最大入力電圧、無負荷、最大負荷、起動、短絡、温度条件で評価します。
ハカルプラスの対応
ハカルプラスでは、計測機器、センサ機器、通信機器、組み込み製品などに必要な昇圧回路を検討します。
入力電圧範囲、必要な出力電圧、最大負荷電流、許容リップル、周囲温度、基板寸法を確認し、制御IC、コイル、ダイオード、MOSFET、コンデンサなどを選定します。
電源回路だけでなく、マイコン、センサ、アナログ計測回路、通信回路を含めて基板を設計し、スイッチングノイズ、発熱、起動シーケンス、異常監視を検討します。
使用部品の生産終了に伴う回路更新についても、新旧部品の特性、基板配置、既存ソフトウェアとの互換性を確認し、対応できる構成を検討します。
よくある質問
Q. 昇圧回路の出力電圧が負荷を接続すると低下するのはなぜですか?
A. 入力電源容量の不足、コイルの飽和、過電流保護、配線抵抗などが考えられます。最低入力電圧時の入力電流も確認します。
Q. 出力電圧を高くすれば同じ電流を取り出せますか?
A. 入力電力には限りがあるため、出力電圧を高くすると取り出せる出力電流は小さくなります。変換効率を含めて電力を計算します。
Q. 昇圧回路から異音がする場合は何を確認しますか?
A. コイルの振動、負荷変動、断続動作、制御周波数を確認します。低負荷時にスイッチング方式が変わり、可聴音が発生する場合があります。
Q. 昇圧回路のノイズを減らすにはどうしますか?
A. 部品配置と大電流配線を見直し、入力・出力コンデンサ、フィルター、シールドなどを検討します。アナログ回路との距離も確保します。
Q. 既存の昇圧用ICを別の製品へ交換できますか?
A. 電圧、電流、端子配置、スイッチング周波数、周辺部品、保護機能が適合すれば交換できる場合があります。基板上での動作評価が必要です。